ADHDや発達障害が注目されるずっと前に社会に放り出された筆者がADHD・ASDの特性を自覚しないまま職を転々としました。様々な業種で働いた経験からADHD・ASDが困ったことは何だったのか思い返してみて分かったことがあるのでご紹介します。
ADHDにとってタスクが多すぎる営業事務
20数年前は就職氷河期の真っ只中で、新卒でも正社員に就くのが困難な時代でした。高校の勉強についていけず大学にも行けなかった自分には正社員の道は厳しいと考えて、複数の派遣会社に登録して派遣社員として仕事しながらPCスキルを磨こうと考えました。
派遣会社に登録すると事務職を希望する人は派遣会社のPCスキルテストを受けることになります。登録日に入力速度を確認するタイピングテスト、Word・Excelの操作スキルを確認するためのPCスキルチェックがありました(派遣登録(面接)→スキルチェックで約2時間程度)。
一定のスキルをクリアすれば自分に合った仕事の紹介を受けることができます。当時タイミングよく募集していた事務職の求人を紹介されたので、後日職場面接に行きとんとん拍子で受かりすぐ働けることになりました。
最初に就いた仕事は工業関係の営業事務でした。ある程度名の知れた大学を卒業していないと正社員で入れない大企業に派遣社員として働けるワクワク感でいっぱいでした。
入ってみると周りは全員有名大卒の正社員で、正社員のいちばん若い人でも23歳。派遣社員として入った自分が最年少だったため、入ってから幾度もやらかすことになるケアレスミスに対しても「まだ若いからしょうがない」と先輩方にフォローしてもらえたのが救いでした。
その会社は学歴優秀かつ人間性ができた社員ばかりで、派遣社員とはいえ自分も良い会社に所属できた高揚感がありました。
幸運にも人間関係には恵まれたものの営業事務のタスクの量が多くこなすのに毎日必死でした。
営業事務は営業マンの事務サポートなので、頼まれた仕事をスマートにこなさなければならず同時並行でやることが多い(マルチタスク)です。
・メールチェック
・電話応対
・書類作成
・書類の確認
・来客対応(お客様へのお茶出し)
・その他雑務(書類や郵便物の仕分け他)
どのタスクも手際よく同時並行で進めるためADHDが擬態するのに非常に困難なマルチタスクです。
20代前半までは120%の力で擬態化すればなんとかこなせるものの、長時間の業務は集中力がもたず頻繁なケアレスミス、次から次へとくるエンドレスなタスクに疲弊するため仕事帰りはぐったり、自宅に着けば1日擬態化した疲れがドッと出て玄関で倒れこみ、前日の疲れがとれないまま翌日に疲れを持ち越す負のループでした。
営業事務や一般事務は常にテキパキ動く必要があります。入りたてだと電話が鳴れば率先して電話応対するため、作業を中断させられタスクがなかなか進まなかったり、別のタスクと並行することは日常茶飯事です。
静かな環境で1つのことにじっくり取り組みたい発達障害(ADHDやASD)は電話が鳴ったり声をかけられると集中力が削がれやすく、周りのペースも速すぎるためついていけなくなり足を引っ張りやすいです。
ADHD+ASDが最もつらいお昼休憩
大企業には社員食堂のある会社が多いです。勤めた会社にも広い社員食堂があり、お昼になると全社員が一斉に社員食堂に集まったためかなり密になりました。
入りたての1~2週間は先輩について行き社員食堂で食べてみたものの、集団の圧が苦しく落ち着かないため、次第に社員食堂に行けなくなりました。
今思えば、ASDの特性があると人が多い場所で気が休まらないのも当然でした。感覚過敏があると集団の中にいると不安になります。にぎやかな場所が苦痛(人の声が聴き取りづらい)、四方から視線を常に感じて落ち着かない、先輩に気遣いながら食べるプレッシャー(食べながらの雑談はマルチタスクでできない、うまく話を合わせられない)など、様々なストレスを感じて心が悲鳴を上げたのだと思います。
社員食堂に行かなくなってからは社内の売店でサンドイッチやおにぎりを買って自分のデスクで食べるようになりました。
お昼になると誰もいなくなるフロアにぽつんと1人取り残された孤独感、やっと1人になれた開放感とが混在して複雑な気持ちでお昼休みを過ごしました。
自分のデスクで食べる社員は誰一人おらず、自分だけがパソコンの前で昼食をとる姿を見かねた先輩社員から最初のうちは不思議がられました(本当の理由(ガヤガヤした場所で食べるのが苦痛)を言えるわけもなく)。
ADHDはデスクワークで眠くなる?
事務の仕事は就業時間のほとんど自分のデスクにいることが多いため、動くことといったらお手洗いに行くか、来客対応(お茶出し)くらいでした。
パソコンに向かったり、書類の仕分けなど単調で変化のない作業を続けると眠くなります。
特に食後は顕著で、食後1時間たつと何度も何度も睡魔が襲ってきました。気絶するように眠くなるため、頭が前後に揺れてウトウトします。自分の意志ではコントロールできず、メンソールタブレットを噛んで眠気を飛ばそうとしてもまったく効果はありませんでした。その頃は部内でいちばん若かったのと、周りが優しい先輩ばかりだったので「まだ若いししょうがない」と大目に見てもらえました。
思い返せば高校時代も毎日授業中に居眠りしていた記憶がうっすらあります。活字を読むと眠くなるし、話が理解できないときや興味のない話を聴いているといつの間にか頭が揺れるほどウトウトしてしまい恥ずかしい思いを何度もしました。まさか社会人になってもそれが続くとは思いませんでした。
座学でも仕事でも共通して言えるのは、興味のあることだけは集中力が持続し、苦手な雑用(例えば書類整理、書類チェック)や単調な作業が続くと集中力が保てずひどい眠気に襲われます。
経験則からADHD・ASDは興味のない物事に取り組むと、無理して擬態を頑張りすぎるためエネルギーの消耗が激しくなった結果、疲弊しすぎて眠気が起こるのだと思います。